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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)4394号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大貫大八の上告趣意は、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。(なお、本件公訴にかかる窃盗の事実が、刑法二四四条一項後段の親告罪であるか否かは、最終的には、裁判所により事実審理の結果をまって、判定さるべきものであり、必ずしも起訴状記載の訴因に拘束されるものではない。従って、本件のように、事実審理の過程において起訴状に記載された訴因事実が前示の親告罪にあたることが明らかになった場合にも、適法な告訴がないからといって、所論のようにその起訴手続を直ちに無効であると断定すべきではない。尤も、かように訴因について訴訟条件を欠くことが明らかとなったときは、裁判所は、もはや、この訴因について実体的訴訟関係を進展させることを得ないから、訴訟条件の欠缺が治癒または補正されない以上、その起訴手続は不適法、無効なものとして、公訴棄却の形式的裁判を以って、その訴訟手続を終結せざるを得ないことはいうまでもない((刑訴三三八条四号))。しかし、本来の訴因が右の如く訴訟条件を欠くからといって、現行法上、それだけで訴因の変更、追加を絶対に許さないとする理由は何ら存しない((親告罪と否とにより、直ちに控訴事実の同一性を失うものではない))。そして、本件においては、本来の訴因事実の一部について、訴因変更の手続が適法になされているのであって、刑法二四四条の適用のない新しい訴因事実が裁判所により認定され、確定されたのであるから、その部分に関する限り本件被告事件は、本来、親告罪でなかった訳であり、従ってこの点に関する本件起訴手続は、告訴がなくても、もともと有効であって無効でなかったことに帰するのである。原判決には所論のような法令違反もない)。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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